『復活の黒大豆シリーズ』第2回目は「ダイズ生産に必要な土づくり」です。ダイズに限らず、土づくりは農業の中で重要な作業のひとつですが、かかる労力・コストが大きく、短期的に影響が出にくいため、軽視されがちであると思います。また、「土づくり」という言葉が漠然としていて、何を指しているのか分からないこともあるかと思います。
昨今の気候変動に対応するために、土づくりは怠ることのできない作業です。土づくりとは何か。何のためにするのか。具体的な方法など、改めて考えていきたいと思います。
第1回「ダイズの一生を考える」はこちらからご覧いただけます。
土づくりの目的、それと誤解
「土づくり」というと、稲刈り後に堆肥を入れて耕耘したり、pH調整のために石灰資材を入れたりということを思い浮かべる方が多いと思います。また、“土づくり資材”が販売されていることも多いです。しかし、これらは土づくりのために使える手段の一例であり、土壌の状態によっては、もっと他に有用な手段があったり、必要ないケースもあります。
営農する上での土づくりの目的は、作物(ここではダイズ)の収量・品質が向上し、なおかつ防除などのコストを低下させることです。作物は根から水や養分を吸収するため、健康な根を張れる環境を整えることが必要です。具体的には、
・水もちが良い
・水はけが良い
・酸素がよく供給される(通気性が良い)
・養分の過不足がなく、バランスがいい
・病害虫にやられるリスクが小さい
これらの特長を持つ“良い土”を目指して「土づくり」をします。
土づくりと施肥の違い
施肥は植物が必要としている養分(チッソ・リン酸・カリウム・カルシウム・マグネシウムなど)を作物に供給するために行います。土づくりは、暗渠・明渠の施工、耕耘、堆肥の投入や緑肥の栽培などを通じて土壌環境を整え、作物が健康な根を張るために行う総合的な圃場づくりといえると思います。
土の成り立ち
土づくりの具体例の前に、土とはどういうものか軽く触れておきます。
土は地球表面に露出した岩石が雨風にさらされるなどして長い年月をかけ細かくなったもの(=粘土鉱物)が母体となり、そこに動植物の残滓(=有機物)と生物が加わることで形成されています。粘土鉱物は営農する上で大きく変化することはありませんが、有機物は営農活動によって増減します。
有機物は微生物の活動に必要であり、その結果団粒構造が形成されます。また有機物の一種である腐植は保肥力や緩衝能(環境の変化に耐える能力)があります。有機物が増加することで、土はより膨軟になり、作物の生産に有利になります。
丹波篠山の土は粒子の細かい粘土質であることが多く、保肥力には優れていますが、有機物が減少すると土が硬くなり、排水性や通気性が悪化します。
土づくりの方法
ここからは、具体的な土づくりの方法を示します。丹波篠山地域の黒大豆は水稲との輪作で栽培されることが多いため、それを念頭に話を進めます。
その1:排水性の改善
植物の根は酸素を必要とします。水稲など通気組織が発達している作物は圃場が湛水状態でも生育することができますが、ダイズをはじめとする畑作物は湛水条件では生育しません。排水性を改善することにより、根がより深くまで到達し、干ばつにも強くなります。そのため、
・稲刈り時に圃場がよく乾くようにしっかり排水する
・稲刈り後、速やかに排水溝を設置して乾かす
ことをきっちり意識して行うようにします。また、
・緑肥を栽培する
ことも排水性の改善につながります。緑肥の根はトラクタの爪が届かない部分まで到達し、枯れたあとは水の通り道となって水はけを改善します(次図参考)。
その2:有機物の補給
有機物の補給には、様々な方法があります。
・稲わらをすき込む
・堆肥を投入する
・緑肥を栽培し、すき込む
・ペレット堆肥を投入する
・腐植酸資材を投入する
有機物を投入することで微生物の働きが活発になり、団粒構造が形成され、通気性の向上につながります。また、有機物の一部は腐植に変化し、保肥力の向上につながります。ダイズを作付けすると土壌有機物を消耗しますが、1, 2年の稲わらのすき込みだけでは回復しません。複数の方法の組み合わせを検討すると良いと思います。
注意すべき点は、稲わらや緑肥など新鮮な有機物は分解に多量の酸素を必要とするため、土とよく混ぜようと思って一度に深くまですき込むと、分解が進まず根に障害を与えることになります。未熟な堆肥も同じです。はじめは浅くすき込むことをおすすめします。
堆肥(ペレット堆肥を含む)は肥料分をよく含むため、有機物の補給に加えて肥料の三要素(NPK)や微量要素の補給効果も期待できます。しかし、正確な成分含量は測定されていないことも多く、連用や過剰投与による養分バランスの乱れに注意が必要です。特に水稲の作付け頻度が低い場合は数年に1回は土壌分析をして養分バランスを確認するのが良いと思います。
秋から栽培できる緑肥には大きくイネ科(オオムギ・イタリアンライグラスなど)とマメ科(ヘアリーベッチ・クローバーなど)がありますが、イネ科は有機物の補給効果が高く、マメ科は有機物と窒素の両方が補給できます。期待する効果に合わせて選択するのが良いと思います。
出典:農研機構 (2020)『緑肥利用マニュアル -土づくりと減肥を目指して-』P.5
その3:酸度と養分バランスの調整
酸度(pH)が低い(=酸性)と細菌の活動が鈍り、糸状菌(カビ)由来の病気が発生しやすくなったり、土壌中のアルミニウムが植物に吸収されやすくなったりして生育に支障が出ます。逆にpHが高い(=アルカリ性)とホウ素・マンガンなど微量要素が溶けなくなり、これも作物にダメージを与えます。必要なミネラルが吸収されやすいpH 6.0-6.5になるように調整すると良いとされています。
日本の土壌は降雨の影響で酸性に傾きやすいことから、石灰を含有する資材(カキ殻石灰、苦土石灰など)の施用が推奨されますが、土壌の現状を把握せず、慣行的に決まった量だけ施用し、土の養分バランスが乱れるケースが散見されます(特に石灰過剰で高pHになっているケースが多いです)。定期的に土壌分析をし、投入する資材の量や種類を調整することをおすすめします。
出典:松中照夫 (2018)『新版 土壌学の基礎』P.100
まとめ
土づくりは、作物の生育を支える根にとって必要な圃場環境を整えるために、以下のことを重視して行います。
① 排水性の改善
過湿を嫌うダイズの根を健康に、より深くまで張らせます。
●稲刈り後の排水溝の設置 ●緑肥の栽培 など
② 有機物の補給
団粒構造を形成させ、水もち・水はけ・通気性を向上させます。
保肥力や緩衝能を向上させ、土壌の安定感を向上させます。
堆肥や緑肥には肥料的効果も期待できます。
●稲わらのすき込み ●堆肥の投入 ●緑肥のすき込み など
③ pHと養分バランスの調整
必要に応じて土壌分析を行い、最適な環境を整えます。
●pH調整 ●石灰・苦土のバランス調整 など
圃場に合わせた土づくりを行い、昨今の気候変動にも負けない作物を栽培しましょう。
参考情報
記事の作成にあたって参考にした情報や、関連するWebサイトをまとめておきますので、参考にしてください。
・松中照夫 (2018)『新版 土壌学の基礎』
・農研機構 (2020)『緑肥利用マニュアル -土づくりと減肥を目指して-』
・土と向き合う 深掘!土づくり考(ヤンマーホールディングス株式会社)
・稲・麦・大豆作等指導指針(兵庫県)
・みんなの農業広場 農作業便利帖 麦・大豆編(一般社団法人全国農業改良普及支援協会・株式会社クボタ)
ご相談について
本記事で取り上げたのは一般的なことであり、実際の土づくりは圃場の特性に合わせて行う必要があります。
弊社では丹波篠山地域の生産者様の営農に関するご相談を承っております。担当者が直接お伺いすることも可能です。土づくりのこと、栽培管理のこと、その他営農に関すること、お気軽にご相談ください。
ここまでご一読くださり誠にありがとうございました。